予定調和。ははは。
Diary 2009.02.27 Feb 22:16
永遠亭はどちらかといえば、日光には愛されていない場所である。いつ訪れてもどこか陰気な、物寂しい、不足の印象を覚える。
それは当然のことだ。周囲に存在する厖大な数の竹。竹。竹。厖大な緑が光を遮断するのだ。もちろん、あの魔法の森と比べれば大分ましな暗さだったが、いずれにせよ感覚が通常からズレる事に変わりはない。
……とはいえ。
永遠亭自体も巻き込んで、その周りの空間だけがまるで黒く塗り潰されたように真っ暗になってしまったなんてのは、恐らく初めてのことだったろう。
「随分と珍しいお客さんね」
永遠亭の診察室。たまに来る外来患者や、よく喧嘩するせいで怪我の絶えない兎どもの面倒を見るその場所で、八意永琳は心底不思議そうに言った。
門番をしている兎から「診てほしいという方が」と告げられて、準備を済ませて迎えてみれば、これは意外な患者が来たものである。
しかし、驚いたのはむしろ、彼女の口からこんな言葉が出て来た時だった。
「……ここって、何でも、どういう病気でも扱ってくれるんですよね?」
紙ヤスリみたいに掠れた、極小の声。
不釣り合いな敬語を使うその来訪者は、頬の著しく痩けた妖怪の少女だった。勧めた椅子の上ですっかり縮こまって、いつもなら爛々と輝いているはずの赤い目が、今はどんより曇っている。
特徴的なのは赤いリボンと金色の髪、その身を包む黒白の服。
思わず永琳は眉の根を寄せる。
彼女を知っている者にもし、「この子ルーミアよ」などと紹介したら、果たして信じてくれるかどうか怪しいものである。
それくらい、おかしかった。
「ええ。そういう事になっています。どうかしたのかしら、貴方みたいな子がこんな所に来るなんて」
まだ少し混乱している頭を落ち着かせながら、とりあえず事情を聞くことにする。何せ彼女は患者なのだ。患者は診察せねばなるまい。
しかし返ってきたのは実に的外れな答えだった。
「妹紅さん、という方に案内していただきました。初対面では怖そうに見えたけれど、とても良い方ですね、あの方」
「……そう」
いや聞きたいのはそこじゃなくてー、とは言わずに黙る。そもそも、とてもじゃないがそんな陽気なことを言い出せる雰囲気ではなかった。
黙っている内に、おずおずとルーミアは話し始めた。
「最近ね、腕のあたりにずっと子供がしがみついてるんです」
「ほう」
唐突な言葉に、思わずそう返さざるを得なかった。何の病気か、大体これで想像がついた。
急に早口になってルーミアは言う。
「私そいつが大嫌いなんです。もう、もうもうもう見る度にいつも殺してやろうって思うくらい大嫌いなんです。でもそいつは私の殺意をいつも敏感に察知しては、そのたびに逆に私を脅してくるんです。
あたしをころしたらあんたもしぬよ、いいの? って」
「…………ふむ」
永琳は考える。それはほとんどポーズに過ぎなかったが、この手の病はとにかくじっくり相手の話を聞いてやることが肝要なのである。相手が話しやすくなるような相応の態度が必要だ。
「その症状は、いつ頃から現れたのかしら?」
「闇、って何なのかなって、考え始めたあたりでしょうかね」
これまたすごいことを言い出すな、と思った。
こちらの目を見ているようでまるで見ていない、奇怪な様子でルーミアは続ける。
「闇って私のアイデンティティーなんですよ。そう、闇。闇闇闇。闇イズ私。アイアム・ザ・ダーク! でも自己の同一性なんてものは、結局誰かと関わらない限りは必要のないものでしょう? だから、私の闇は確かに私のための闇だけれど、同時に誰かのための闇でなくてはいけないんです」
「でも、私にとっての闇と、誰かにとっての闇は必ずしも一致するものじゃなくて、だからそこで摩擦が起こる。お互いに理解なんかできない」
「じゃあ私はどうすればいいの? どうすりゃいいっていうの? それでも私は私にとっての闇を自己中心的に押し通せばいいの? そうしたら怒るくせに?」
「それとも誰かにとっての闇を、私にとっての闇に変えてしまえばいいの? そうなの? ははは! じゃ私を誰かに預けろって? 誰か? そんな不確かなものに?」
「……もう、何もかもいやなんです。いやでいやで仕方がないんです」
そう言うと荒い息を吐いて、ルーミアは黙り込んだ。泣いているのだろうか。顔を伏せられたのでよくわからない。
だが、いずれにせよ、永琳に言える言葉は一つしかなかった。
少なくとも今は。
「えーと、ルーミアさん」
「は、はい」
「宵闇の妖怪だからって、別に貴方自身まで暗くなる必要はないんですよ」
そこで。
にや、と。少女の唇が歪んだ気がした。
「なーんだ! そーなのかー!」
……そこから先の出来事は一瞬だった。
気でも触れたように顔を上げると、太陽みたいな素晴らしい笑顔を浮かべて、そのままルーミアは風のような速度で診察室を出て行ってしまった。
診察のお礼も言わずに。でも代金はちゃんと椅子に置いてあった。
「…………」
無音の室内で、永琳はふと思った。
今日も、平和だ。
世の中というのはどうせ、そういう風に出来ているのだ。
「……………………お大事に」
そう言ってから窓の方を向くと、薄い光を取り戻したそこから、黒い塊が宙を移動する様が見受けられる。
だから永琳は小さく呟いた。
「また悪いところが出来たら、いつでもどうぞ」
……この言葉が、彼女の背中に届いたかどうかは。
まぁ、五分五分といった所だろう。
------------------------ここから雑記------------------------
レミリア「ちょっと咲夜! 明日なんてなかったじゃない!」
咲夜「知りませんよ」
はい、今回のオチです。わかりにくいですね。
どうも。ddsです。
本当は今回も四コマ的にやろうと思ってたんですが。おかしいですね、なんか気が付いたら生意気にもショートショートになっておりました。
正直下らない読み物だと思います。
お目汚し失礼しました。
頭痛が痛い。
今日はこの辺で。
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